無痛分娩ってどうなの?
海外での巨大バースセンター(日本とは違って一つの施設に集約され日本の施設の5倍以上の分娩を行う施設)などでは麻酔科医と産科医がチームを組んで硬膜外麻酔を使って無痛分娩を行っています。日本でも無痛分娩が徐々に広まっていますが、どうなのでしょうか?
個人的な見解もありますが、積極的に推奨するべきものではない分娩方法です。はっきり言いますが、一番赤ちゃんに安全なのは「自然分娩」です。どんなに安全に無痛分娩を行っても安全性において自然分娩にはかないません。
なぜか無痛分娩は最先端の分娩で反対してはいけない風潮があるようにも感じますが、自然分娩は別に時代遅れでもなく根性論でもなく極めて優れた方法です。一番安全なのは自然分娩で、痛みや恐怖でどうにも出産できない人が帝王切開を回避するための選択肢としてリスクのある無痛分娩があるのです。
無痛分娩とは背中の神経付近に硬膜外チューブを留置し痛みをとりながら分娩をする方法ですが、チューブが所定の位置に入らない状態で薬が入るとお母さんの呼吸が止まり、お母さん赤ちゃんともに麻痺や最悪死亡するなどの自体になります。これはどんなに優れた麻酔科医でも所定の位置に入らないことはあることは無痛分娩の講習会でも説明されています。実際、産科医が硬膜外麻酔を行う危うさもあります。麻酔科研修をすると感じるのですが、麻酔科の先生の硬膜外麻酔はしっかりと針先がどこにいて、こうすれば入るという立体的なイメージがあり挿入する技術も多様ですが、産科医の硬膜外麻酔は骨と骨の間を行けばそのうち入るといったアバウトな側面があり、一度トラブルとリカバリーする能力には劣ります(当然、麻酔科レベルの技術の先生もいますが)。
陣痛が始まったら麻酔の管を入れますが、麻酔の影響で転倒のリスクがありトイレに行けないため尿に管をいれ、血圧計、心電図などのモニターに加え赤ちゃんの心音をつける機械も装着され、8本も9本も体中にあらゆる管やモニターがつけられ寝たきりで動けない状態での分娩が何時間も続きます。
分娩が進行しないためかなりの確率で吸引分娩といって赤ちゃんを引っ張って出産するため赤ちゃんの頭で出血を起こすリスクも上がります。加えて吸引分娩時に会陰切開といっておしもに5cmほどの切開も入り産後は痛くて座るのもままなりません。無痛分娩といいつつも痛くないのは分娩中だけで産後は確実に無痛分娩の方が痛く、産後はヨタヨタ座れない、それが産後数日ずっと続きます。
帝王切開になる確率も自然分娩と変わらないと言われますが、施設によっては帝王切開率が30-40%と異常に高いクリニックもあります。24時間無痛分娩に対応できない施設では日中に陣痛がくるように計画分娩といって薬で陣痛を起こしますがこちらは帝王切開率が上がる可能性がすでに示唆されています。痛みが怖くて無痛分娩にしたのに、自然分娩だったら普通分娩ができた人が無痛分娩のせいで帝王切開となる矛盾はやはりおかしいでしょう。
当院では無痛分娩はできる体制にありますが、行いません。
なぜなら自然分娩なら普通に産めたはずの人が無痛分娩にしたせいで帝王切開になったり母体や児に重大な合併症が出ることは許容できないからです。海外の巨大バースセンターで行う無痛分娩と比較すると日本のクリニックでの無痛分娩を行う背景はどうしても集客目的で別に帝王切開になってもよいという側面が垣間見えてしまいます・・
無痛分娩は自然分娩と比べて特別優れていません。痛みは無駄なものではなく、根性論などと否定されるものではありません。自然分娩とどうしようと迷うくらいなら自然分娩の方がいいです。自然分娩は絶対無理、自然分娩するくらいなら帝王切開するという人は帝王切開を回避する選択肢として無痛分娩はありです。ただし、痛くなくて楽だったという人がいる反面、動けなくてつらいし、痛かったし、進まなかったし、帝王切開になったしと自然分娩にすればよかったと後悔している人が少なくない数いることは認知してください。
自然分娩はどこも同じではありません。部屋に全然助産師が来室せずモニターだけつけられてナースステーションでお話しているクリニックもありますが、そんなものは助産ではありません。やることや話すことがなくても希望があればずっと寄り添って「疲労はどうか」「水分はとれているか」などこまめにケアをしつつ心が折れないように支えるのが助産です。出産前から腰のゆがみがないか、心配はどんなところなのか助産師と準備しながら進めていきます。
めずらしくやや熱い文章でその分まとまりがなく文章量が多くなってしましましたが、とりあえず安全な分娩が行われることを切に願います。
岐阜市、各務原市、関市、羽島市、岐南町、富加町など当院で出産していただいた方からの口コミで受診される方がとても多くなってきました。当院は立地的には皆さんの地域から遠いと思いますしより近いクリニックもあるでしょう。それでも当院を選んでいただいているからにはその期待を裏切らない、期待に見合ったクリニックであり続けるために自然分娩にこだわって邁進していきますのでよろしくお願いします。